お知らせ一覧へ戻る

統合デザイン学科の学生とTOPPANが『愛着』をテーマにデザイン戦略を共同研究


2022年に引き続き、統合デザイン学科の長崎綱雄教授が担当するPBL科目として開講した授業で、11名の学生たちがTOPPAN株式会社と「空間や環境を構成する建装材に関するデザイン戦略の構築と企画・デザイン開発」の共同研究を行いました。1月11日に上野毛キャンパスで行われた成果発表では『愛着』をテーマに仮想空間「学生のためのシェアハウス」の空間演出企画をプレゼンテーションしました。

本学のPBL(Project・Based・Learning)科目は、横断的研究や社会的課題に学科、学年、キャンパスの隔たりを超えて共同で取り組めるプロジェクトとして、多くの学生が履修しています。

講義風景:TOPPANデザイナーからのキッチン空間への提案事例を紹介

1.共同研究で学ぶ、実践的なデザイン戦略の構築やプロダクトデザインの提案

授業では、同社の生活・産業事業本部 環境デザイン事業部のデザイン部門の主力商品である建装材のデザイン事例紹介や、住生活に関わるショールーム見学やデザインリサーチ、同社の実際の企画提案プロセスを学ぶワークショップなど、実践的なデザイン戦略の構築、企画・デザイン開発に関する講義が展開されました。さらに市場動向の紹介や同社のグローバルデザイン情報、サーフェスデザイン(化粧シート)に関する基礎知識、開発プロセス、近年重要視されるSX*やDX*の取り組みなどについて、ビジネスの最前線で働く社員の方々からのレクチャーを受けました。学生たちは共同研究を通して、これからのビジネスで必要とされる知識やスキル、デザインのプロセスや戦略を学びました。

*SX:サステナビリティ・トランスフォーメーション…社会、企業それぞれの持続可能性を考え、どちらにも貢献する経営への移行
*DX:デジタル・トランスフォーメーション…企業がビジネス環境に対応するため、デジタル技術を活用して変革し競争力を高めること

2.「所有・体験」の考察を踏まえ、それぞれの『愛着』のデザインを実装する

研究テーマの『愛着』を考えるにあたり、学生たちはまず自分にとっての「所有・体験」という行為がどのように『愛着』につながっていくのかを考察しました。愛着とは、自分の価値観や感情を反映したものへの深い思い入れや関心のことです。学生たちは、愛着を持つために何にお金や時間をかけるのか、また、愛着を持ったものはどのように自分の生活に影響するのかを議論しました。次に、愛着を感じる仮想空間「学生のためのシェアハウス」の空間演出企画について平面課題、および立体課題に取り組みました。最終講評会では、シェアハウスのオーナーを想定したプレゼンテーションを行いました。

【平面課題】
「仮想シェアハウス」の①エントランスからアプローチエリア、②近隣住民も利用するカフェラウンジエリア、③居室エリアの空間ボックスの内装のコーディネートに取り組みました。サーフェスデザインにはこれまでの議論や考察から導き出された「なくなると寂しくなる」「いつでも戻って来たくなる」「離れがたい」「長い時間を過ごしたくなる」などのコンセプトを落とし込み、ストーリー性を持ったデザインを提案しました。

平面課題の制作物。「創作と生活が共にある」ことが愛着に繋がるという美大生らしい提案もあった

【立体課題】
TOPPANとの共創関係から、角紙管、再生ボード等を生産する日本化工機材株式会社から材料をご提供頂き、これらの材料を使って、シェアハウスのプロダクトデザインを行いました。シェアハウスでは共同生活をする人たちがコミュニケーションを楽しめるような空間づくりが重要であり、空間の魅力がシェアハウスの価値にもつながります。そこで、カフェラウンジやアプローチエリアなど、多用途・多目的に使える空間を考え、プロダクトのアイデアやプロトタイプを創出しました。
中間講評では、TOPPANと日本化工機材の社員が複数名参加し、学生たちは頂いたアドバイスや意見をもとに、企画を深めて作品の質を上げ、最終の空間演出課題に取り組みました。

・交流を促進し、フレキシブルに使えるテーブルとチェア
・紙管の穴や再生紙の色を生かし、美しい影を落とすペンダントライト
・軽量で置き台にもなる居室用のスツール
・作品や小物を飾れるギャラリー風のシェルフ
・外に開かれた開口部に合わせた縦型ブラインド
などが提案され、これらのプロダクトは、角紙管の特性を活かしたユニークなデザインになっている

3.学生にとっての『愛着』を考え、グループワークでシェアハウスをデザインする

【最終の空間演出課題】
2グループがそれぞれ『階段にみんながいる家』と『河川敷のシェアハウス』と、2つの空間演出企画をプレゼンテーションしました。

『階段にみんながいる家』
川の土手にある大きな階段の心地良さに着目しました。階段という移動手段のスペースを共有の空間とし、階段で顔を合わせたり、座って話したりすることで、コミュニケーションが生まれます。素材は木質系で、優しく落ち着いた雰囲気を演出します。座る位置によって見え方や気分が変わるのも楽しみの一つです。天井が高く、圧迫感やストレスがない住み心地が『愛着』につながると考えました。エントランスは学生用とカフェ用に分かれています。学生用はセキュリティーを考慮してクローズなスタイルです。カフェに通じるエントランスはクリアガラスのオープンスタイルで、中央の階段が視界に飛び込んでくる空間構成となっています。どちらの入り口から入っても自然と階段がシェアハウスの中心となり、コミュニケーションが広がるのがねらいです。

『河川敷のシェアハウス』
『愛着』のコンセプトを「温もりを感じられ、いつでも戻って来たくなる場所」と捉え、河川敷の自然の景観を感じられるオープンな空間を展開。土手の傾斜を利用し階段状に配置された居室エリアは、どの部屋からも河川敷の景色を楽しむことができます。正面玄関から二手に分かれたアプローチは、一方は学生による作品展示(ギャラリー)を見ながらカフェラウンジへとつながり、もう一方は学生の作品が購入出来るフリーマーケット、居室エリアへとつながります。カフェからは広々とした芝生の中庭へ抜けることができ、近隣住民や学生同士の交流の思い出を『愛着』につなげるねらいです。

最終講評を受けての所感

TOPPAN株式会社 クリエイティブ戦略担当で統合デザイン学科の井ノ口清洋非常勤講師からは、「前期の『所有・体験』の考察では、ほとんどの学生がそれらを自分への投資、成長のためのモノやコトとして捉え、吟味している姿勢が確認できた。後期の『愛着』という難しいテーマに向き合い、平面、立体の課題をこなしていく中からは、『愛着』への本質的な部分、その場のモノや出来事が純粋に好き、共感できる、喜びになる、満たされることの大切さが語られ、最終空間課題では両チームから「暮らしぶりを素直に考えられ、本当にこんな家が建って欲しいとみんなが思えるシェアハウスになった」というコメントがあったのが嬉しかった。グループワークでは人の意見から自分の新たな「気づき」が生まれ議論を深めていく中で、企画がブラッシュアップされていく学びになったかと思う。社会に出れば当たり前になるワークを共同研究で体験してもらえて良かった」との総評がありました。

担当教員の統合デザイン学科の長崎綱雄教授は、「受講した学生たちは概ね20歳前後で、彼らは特に多感な時期にコロナによって生じた思考や身体、生活の大きな変化を体験した世代で、その当事者たちが「所有・体験・愛着」といった抽象度の高い難しいテーマをどのように捉えているのか、またどのように捉え、向き合うのかとても興味深く考えていた。前期の「所有・体験」の考察のフェーズでは、自分自身の生活の中で生じているこころや意識の機微を見つめるところから始め、社会に現れ始めているわずかな変化の兆しを探り、一連のコンセプトメイキングのフローを学んだ。後期には「愛着」をテーマにプロダクト、空間のデザインを具体化した。どの作品も自分たちの身体的、記憶的実感からかたちや姿や機能を導き出していたように思う。頭で考えたような表層のデザインではなく、これからの私たちの生活の中で馴染んでいくようなデザインが多かったように思う。これらはとても素晴らしい成果で、世の中に芽生え始めている信頼できる兆しであると思う」としました。

参加した学生からは「世界で活躍する企業がどのようにトレンドを分析しているのか勉強になった」「デザインが採用されるまでの流れはオーダーしてくる企業によって変わり、それによって制作の仕方も変わるのが面白いなと思った」「ひとつの企画や商品が、どのようにして自分たちの手元に届いているか具体的に知ることができて非常に面白かった」「どのような提案が最適なのか、様々なリサーチと流行の分析によって決定されるまでの過程の話が印象的でした」「大学内ではなかなか見ることのできない貴重な講義、資料が興味深かった」「企業目線でのマーケティングスキルやデザイン開発のプロセスが学べ、とても勉強になった」「秋葉原ショールームでは実際に空間で使われている建装材を見て、雰囲気の違いなどを体験することが出来た」「色んな人の発表を通して、共感できる部分、少し違う考えを持った部分などがあって面白かった」「製品を作るに際して、制作の過程よりもそれに至るまでのリサーチが重要だと学んだ」などの感想が寄せられました。学生たちはビジネスの最前線で働く方々との共同研究を通して、次世代を担うクリエイターに必要とされるデザインプロセスや戦略を学びました。さらに少し未来に訪れる変化の兆しをキャッチする感性や視点を磨き、社会ニーズを捉え、デザインに落とし込むことの重要性を学ぶ貴重な経験となりました。

  

関連リンク

PBL科目について別ウィンドウリンク
凸版印刷と統合デザインで『変化』をテーマに空間演出へのデザイン戦略を開発別ウィンドウリンク
統合デザイン学科 紹介ページ別ウィンドウリンク