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故 秋山孝先生の業績の数々を振り返る「秋山孝 in 多摩美」展が行われました


9月23日から10月5日の間、故 秋山孝先生の数々の業績を振り返り、その足跡と思考をたどる展覧会「秋山孝 in 多摩美」が、グラフィックデザイン学科の主催で行われました。

初日に行われたトークショーの様子。写真右から、なかじましんやさん、澤田教授、高橋准教授

秋山先生はグラフィックデザイナー、イラストレーターとして第一線で活躍しながら、30年以上にわたり本学の教壇に立ち、後進の指導に尽力されました。教育研究活動においてはイラストレーションを「人間の持っているもう一つの言葉」と位置付け、追求し続けました。

会場のアートテークギャラリーには、秋山先生のユーモアあふれるイラストレーションによって展開された約150枚のポスターや書籍、授業テキストなど厳選された資料が展示され、学内外から多くの人が訪れました。

初日にはCMディレクターで元グラフィックデザイン学科教授のなかじましんやさんをお招きし、澤田泰廣教授、高橋庸平准教授とのトークショーも行われました。秋山先生との出会いから、教育、研究、制作の現場での秋山先生の言葉や行動など、それぞれ印象に残っているエピソードを語り合い、秋山先生のお人柄を偲びつつ、秋山先生がどのようなことを考えられ、どのような思いで学生に向き合われていたか、その一端をうかがい知ることができる機会となりました。

『自分にも描けるかも?』と思わせて、真似しようと思ってもできない

高橋准教授:この部屋に飾ってあるのは2000年以降に多摩美のイベントのために制作されたポスターです。秋山先生がイベントに込めたエネルギーを見てもらいたいという考えで作品を選びました。僕自身がいちばん感動できるようなかたちにしたいと思い、このような3段組みの配置にしたのですが、すごく独りよがりな構成になってしまったかもしれません。1枚1枚に先生との思い出があり、当時の出来事が思い起こされます。

澤田教授:白い壁によく映えて、感傷的になってしまうね。これらの作品はほとんど秋山先生が病気になられてからの仕事。最後のほうは1年間に30枚くらい制作されていた。いろんな困難を乗り越えながら制作する姿を見ていたので、秋山先生の魂を感じますね。

高橋准教授:学生の展覧会のためのポスターを作ることが多かったのですが、「学生に作らせているんだから、先生も作らないとダメだ!」とおっしゃられ、率先して制作されていた。僕たちはいつもその後を追いかけるような感じでした。

なかじまさん:抽象的な話だけれども、フレームワークというか、印刷を前提としたコミュニケーション、グラフィックデザインですよね。イラスト(挿絵)という感じの在り方ではない、というのが僕の秋山先生への印象です。深いことを考えているけれど、カジュアル。スッと人を引き入れてくれる敷居の低い絵といいますか。『自分にも描けるかも?』と思わせて好きになるんだけど、真似しようと思っても決してできない。線の味わいも職人技だと思いますね。

高橋准教授:この建物の外観部分に今回の展覧会のポスターを連ねて貼っているのですが、設営の段階のときでも「なんだなんだ?」と人が集まって、どんどん入ってきたんです。この3段組みのポスターの設営を手伝ってくれた職人さんも、仕事を終えたときには秋山先生の作品を好きになっていました。

「記録にこだわる、自分がやったことの証を残す」

なかじまさん:「しんやくん、大学って研究施設なんだよ。研究結果をアーカイヴしていくのが大学なんだよ」と教えてもらったことも、印象に残っています。

澤田教授:秋山先生の特徴として「記録にこだわる、自分がやったことの証を残す」ということがあります。ポスターや本にするのは「残るから」だとおっしゃっていた。ものすごく勉強家で、アートやデザインだけじゃなく、哲学、教育学などさまざまな分野の学問にも精通され、論文もよく読まれていました。そこにご自身の意見も混ぜてお話しされるので、おもしろかった。

とくに「デザインの『人に伝える』という機能からいえば、中世の宗教画などはすべて『目的』を持っている。あれはイラストレーションなんだよ」ということを秋山先生はよくおっしゃっていました。誇りをもってイラストレーション、グラフィックデザインを学ぶようにと。僕も今でも学生のみんなにそう伝えています。

なかじまさん:70年代ごろのイラストレーターは流行りの職業というか、ちょっと「チャラい」イメージで。商業美術の地位が低いから、純粋芸術との差をくつがえそう!ということも秋山さんはよく言っていましたね。長年にわたって秋山さんの仕事を手伝っていた庸平くんには、もっとたくさんのことを伝えていたんじゃないかと思う。

高橋准教授:秋山先生とまったく同じことはできませんが、先生が大事にされていた「研究」の部分を僕なりに、これからもずっと大切にしていきたいと思っています。今回、自分の肩書を「イラストレーション研究者」としたのも、そうした理由からです。今後の長期的な目標として、秋山先生が目指されていたイラストレーション学会の設立を実現できたらと考えています。

  

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