株式会社
アートフロントギャラリー/
市原湖畔美術館

アーティストが活躍できる環境作りに、新たなエネルギーを注いでくれる

1982年の創業以来、作品のもつ時代精神や未来への予感に寄り添い、美術を広く国際的な観点で捉え、深く社会的な場で展開することを目的に、パブリックなプロジェクトを中心に美術全般に幅広く関わる。2013年より市原湖畔美術館の指定管理者としてその運営に携わり、千葉県一の貯水面積を誇る高滝湖を望む自然豊かなロケーションを生かし、アートだけでなくさまざまなアクティヴィティを屋内外で楽しめる「首都圏のオアシス」を目指す。
https://www.artfront.co.jp/jp/ https://lsm-ichihara.jp
取材日:2023.10.28

アートフロントギャラリー 取締役
市原湖畔美術館 館長代理
前田礼さん

厳しさを増す社会情勢のなか、アートに希望を見出そうとする人が増えている

当社は新潟県の広大な里山を舞台とする「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や瀬戸内海の島々を舞台とする「瀬戸内国際芸術祭」など、全国各地の芸術祭のコーディネートを事業のひとつとしています。アパートの一室で一枚の版画を売ることからスタートし、住宅やオフィスなどの建築空間のアート、やがて世界36か国のアーティストが参加して都市のさまざまな機能をアート化した東京・立川の米軍基地跡地の再開発プロジェクト「ファーレ立川」を手がけました。そこから芸術祭のプロデュースにつながり、アートによる地域の活性化、アートを道標にして里山や島々を巡るという新たなモデルへと発展していきました。

アートを通じた私たちの歩みは空間から都市、地域へと拡がり、越後妻有、瀬戸内に続く3つめの芸術祭の舞台となったのが千葉県市原市です。市の南部は農村地域で過疎化とともに高齢化が進んでおり、この問題をアートで解決するために芸術祭を企画、その中核施設として2013年に市原湖畔美術館がオープンしました。

当館は「世界をどう把握するか」というテーマを背景にした企画や、海外アーティストの招聘および文化機関との協働による国際性を持った企画、新しい表現やアートの提示を試みた企画など、5つのコンセプトをもとに展覧会やイベントを開催しています。学芸員を務める多摩美卒業生の戸谷さんは、新しい表現やアートの提示を試みた企画という点において、とくに秀でた資質を持っていると感じています。

戸谷さんの特長は、同時代の作家に関心が強いところです。若手の作家をすごくよく見ていて、「彼らと一緒に展覧会やイベントをやりたい、彼らに光が当たる場を作って応援したい」という気持ちが非常に強い。また、物怖じせずに企画を提出する姿勢も素晴らしいですね。ときには「これが展覧会として成立するの !?」と驚くこともありますが(笑)、これまでアートがなかった場所にアートを築き、その可能性を広げ、アーティストが活躍できる環境を作り上げていくという私たちの指針に、新たなエネルギーを注いでくれています。

コロナ禍や戦争、自然災害、あるいは格差の拡大など、厳しい社会情勢のなか、アートに希望を見出そうとする人は少なくないと思います。私たちの美術館もコロナ禍では緊急事態宣言のたびに休館を余儀なくされましたが、来館者の数はコロナ以前よりもかなり増えました。アートが不要不急のものではなく、人々の生活に根差した必要不可欠なものになっている表れです。多摩美で学ぶ皆さんが、アートの担い手として、アートと人をつなぐ活躍をされることを期待しています。

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アートフロントギャラリー
市原湖畔美術館 学芸員
戸谷莉維裟さん
2021年|芸術学科卒

作品づくりのリサーチや制作のサポートなども担い、作家に寄り添う

芸術祭の現場を経験した後、市原湖畔美術館で学芸員として働き始めて1年半になります。企画段階から実施まで関わった最初の展覧会は、当館の10周年記念として開催した「湖の秘密―川は湖になった」展です。当館の目の前に広がる高滝湖は1990年の高滝ダム竣工とともにできた人造湖で、市原を南北に縦断する養老川の頻繁な氾濫を抑える目的で建設されたものです。その歴史や地勢、民俗などを背景に、土地をひとつの発想の源として、さまざまなメディアの8人のアーティストたちが美術館内外の空間に作品を制作しました。

私が推薦したのはそのうちの2名です。フリークライマーとしての独自の視点をアートに落とし込んだ写真や映像を発表している作家の菊地良太さんと、FRPという樹脂素材を使い、ポップな色彩かつ単純化された形を彫刻として発表する作家の椋本真理子さんです。地元の人にとっては見慣れている美術館を囲む景色を、彼らの作品を通じて別世界のものに表現してくれるだろうと思い、声をかけさせていただきました。

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おふたりをはじめ全ての出展作家の方々とやり取りし、ときには作品づくりのリサーチや制作のサポートなども担わせていただきました。作品に用いる素材を探したり、湖の底にある5トンもの土をボランティアの方とともに運び出し、近隣の体育館に広げて乾燥させた後、当館地下の展示室まで運んだり。一般的な学芸員のイメージからはかけ離れているかもしれませんが、作家に寄り添って伴走しつつ、裏方に徹する学芸員でありたいと思っています。

この思いの原点にあるのが、多摩美の学生時代に所属していた家村珠代先生(本学芸術学科教授)の展覧会設計ゼミでの経験です。作家と学生が協働して1年間かけて展覧会をゼロから作り上げるのですが、作品をどう見せたら面白いか、展示の構想を具体化するために日々議論を重ねて制作する一連の過程をとても楽しく感じたことが、その後の進路選択につながりました。家村ゼミで学んだことすべてが、現在の学芸員の仕事に直結しています。自分がアンテナを張って注目した作家と関わり、協働を通して思いを共有し、ともに展覧会を作り上げること、そして展覧会に足を運んでくださるお客様の姿を目にできることに、大きなやりがいを感じます。

美術はもちろん、文章を書くことや本を読むことが好きな私が、学芸員として美術に携わっていることに、自分自身、驚いています。この状況を有難いと思わずにはいられません。自分の好きなことに対して自信を持ち、好きでい続ければ、自然と道が開けていくのだと実感しています。多摩美の後輩の皆さんも「好きを仕事にする」という気持ちを大切に、貫いてほしいと思います。

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※掲載者の所属などは記事公開時のものです。