富山県美術館

展覧会を一から作る「TAMA VIVANTⅡ」を経験、学芸員の道を志す

前身である富山県立近代美術館を移転・新築し、立山連峰の美しい眺望を臨むJR富山駅北側の富岩運河環水公園内に2017年開館。3階建ての建物は内藤廣(建築家・本学学長)の建築設計によるもの。世界的なコレクションを新しい切り口やテーマで紹介するほか、デザインの視点を積極的に取り入れ、人々とアートやデザインをつなぐ場となることを目指す。
https://tad-toyama.jp/
取材日:2023.10.24

学芸課長
以倉新さん

アートに関して雑食性を持って臨むという
学芸員に欠かせない資質を持っている

当館はピカソ、シャガール、ミロ、デュシャン、アンディ・ウォーホルなど、20世紀美術の国内屈指のコレクションを誇ります。前身である富山県立近代美術館の草創期から当館の活動に関わった美術評論家の東野芳明(1930-2005、本学芸術学科創設時の教授)の尽力によるものです。また、ポスターや椅子といったデザインコレクションも充実しています。世界から最新のポスターを公募し、審査・選抜する国内唯一の国際公募展「世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)」を1985年より主催しており、入賞作品をコレクションしているのですが、ポスターのコレクションは約1万4000点に及びます。多摩美の学生や卒業生も数多く応募しているので、おなじみかもしれませんね。

2017年の移転・新築後は、3階に「アトリエ」というスペースを設け、ワークショップや作家の公開制作を開催するなど、アートによる教育普及プログラムにも力を入れています。子どもから大人まで幅広い層に親しんでいただいており、2023年7月には来館者数400万人を達成しました。

多摩美卒業生の内藤さんには、これまで主に3つの展覧会を担当してもらいました。宮城県美術館が所蔵する月刊絵本『こどものとも』(福音館書店)の初期作品を中心とした絵本原画コレクションを紹介する「絵本原画の世界2022」、現在第一線で活躍するデザイナーやアーティストの作品を取り上げた「デザインスコープ」展、現代日本を代表する画家の「大竹伸朗展」です。このラインナップからは多摩美らしい柔軟性を感じますね。最新のアート事情に精通しつつ、食わず嫌いなく、いろんなものを受け入れて取り組む姿勢があります。アートに関して雑食性を持つのは、学芸員として欠かせない重要な資質です。当館が今後もより開かれた美術館として発展していくために、その良さを活かしてさらに研鑽を積み、守備範囲の広い、柔らかな仕事ができる学芸員になってくれることを期待しています。

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学芸員
内藤和音さん
2021年|大学院芸術学修了

多摩美で展覧会に必要なすべてを経験できたことが、
いまの仕事に役立っている

私が所属する普及課では、教育普及、展示、調査・研究、収集・保管の4つの分野に従事するほか、メイン業務のひとつとして、当館3階の「アトリエ」でのワークショップを企画運営し、幅広い年齢層の方々がアートを楽しめる体験プログラムを開催したり、第一線のアーティストを招いた催しを行ったりしています。遠足や学習の一環で来館される児童・生徒さんへのご案内も役割のひとつです。鑑賞の手助けをしながら、作品への理解を深めてもらう活動をしています。

学芸員の仕事は人と関わることが大半です。来館されるさまざまな人たちに、自分が企画した意図を理解してもらえると嬉しく、やりがいを感じます。たとえば、昨年担当した未就学児の美術館デビューをサポートする「ひよこツアー」では、子どもたちから色や形に対する関心を引き出し、美術そのものへの興味を持ってもらいたいという思いから、木材の端材を筆代わりにして絵を描いてみようというワークショップを行いました。木という素材にふれ、角を使って線を引くなどして喜んでいる様子を見て、きちんと意図が伝わっているのを実感しました。このとき思いついたアイデアの源流には、多摩美の生涯学習プログラムで海老塚耕一先生(本学名誉教授)が担当されていた「あそびじゅつ」があると感じています。

子どもの頃から美術が好きで、作品を作る側ではなく、作品に対する知識を深めたいという動機から多摩美の芸術学科に入学しました。学芸員になろうと思ったのは、大学3年のときに海老塚先生のゼミに所属し「TAMA VIVANTⅡ」と、4年次に所属していた家村珠代先生のゼミの「家村ゼミ展」を経験したことがきっかけです。「TAMA VIVANTⅡ」は、ゼミ生が自分たちで1年かけて展覧会を企画運営するカリキュラムで、企画テーマの設定から作品の選択、作家との対話、カタログ制作や予算の運用など、実践を通じて学びます。一方、「家村ゼミ展」は、作品や展覧会のコンセプトと展示空間の調和について考えます。展覧会を設計していくうちにその楽しさを覚え、性に合っているなと感じました。平行して「あそびじゅつ」にも携わらせていただいていたので、ハードな1年間でしたが、ひとつの展覧会に必要なモノ・コトすべてを経験できたことは大きく、それがいまの学芸員の仕事に非常に役立っています。

「過ぎていく時間の速度を、ゆっくり流れるようにする方法を考える」

ひとつの展覧会を企画するということは、印刷物のことやスケジュール管理、必要な資材や道具の調達など、たくさんのやらねばならないことがあります。「TAMA VIVANTⅡ」でも例外ではありません。そのなかで海老塚先生が「過ぎていく時間の速度を、ゆっくり流れるようにする方法を考えて行動しなさい」と教えてくださったことが、強く印象に残っています。物事に対する深い考えは、ある程度、時間をかけないと出てこないもの。忙しさにあたふたするのではなく、一旦立ち止まり、落ち着いて考える時間を作りなさい、ということを伝えたかったのだと思います。この教えは学芸員になったいまも意識するようにしています。

学芸員に興味を持っている後輩の皆さんにも、「手を使うこと」をおすすめしたいと思います。実際に自分の手で作品を取り扱い、展示台に配置するなど、多摩美には学芸員の仕事を経験できる機会や環境があるので、ぜひ積極的に活用してください。加えて、同じ学生という立場で作品を作っている人たちとの交流も大事です。学食で一緒にお茶を飲むなど、どんなかたちでもいい。作り手と同じ環境に身を置き、同じ光景を見て経験を積むことが、将来、学芸員としての視野を広げることになると思います。

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※掲載者の所属などは記事公開時のものです。