企業の人事担当者・卒業生に聞く/エンターテインメント

テーマパークの細部に宿る「ストーリー」をデザインで表現し、積み重ねる

株式会社オリエンタルランド

卒業生の高瀬 夏来さん。千葉・舞浜の株式会社オリエンタルランド前にて

1960年に「国民の文化・厚生・福祉に寄与すること」を目的に設立され、主にテーマパークの運営を行う。
https://www.olc.co.jp/

2023年12月掲載


ホテルのロビーや客室など、インテリアデザインを担当

高瀬 夏来さん
高瀬 夏来さん

2013年|環境デザイン卒

株式会社オリエンタルランド
第8テーマポート推建設グループ
チーフリードエンジニア

テーマパークの施設やステージ装飾、グッズなどのデザイン全般を担う部署があります。環境デザイン学科時代の同級生やグラフィックデザイン学科、劇場美術デザインコースを卒業した先輩・後輩などの多摩美卒業生が働いています。私は小さいころからテーマパーク内に散りばめられた「物語」を見つけていくのが好きで、将来はテーマパークの空間を作りたいという思いがあり、多摩美の環境デザイン学科に入学しました。卒業後は空間プロデュースを手がける会社を経て現職にたどり着き、小さいころからの夢をかなえることができました。

入社後はテーマパーク内の施設の改修や追加されるオブジェクトのデザインを2年ほど務め、現在の部署に異動してからは2024年にオープンするホテルのインテリアデザインを担当しました。ロビーやレストランといったパブリックスペースの家具や造作物、壁紙のグラフィックをデザインしたり、壁に飾るアートワークも自分で制作したりしました。お子様連れのお客様が多いので、造作物を設置する高さや形状などにも配慮しつつ、安全性やメンテナンスのしやすさなどを考えながらデザインインテントの達成を目指しました。また、アメリカの関連会社との連携もあり、彼らがデザインしたマテリアルや現場の状況確認など、密なやりとりを重ねて作り上げました。

この仕事をするうえで必要とされているのは「物語を大切にする」ということです。たとえば、テーマパーク内にはエリアごとにテーマがあり、「20世紀初頭のアメリカ」「南ヨーロッパの古き良き港町」 など時代や地域の設定が決まっているのですが、その地域ではどのような素材が手に入るのか、どういう道具で物作りをするのかといったことを細かく調べてデザインを考えます。店舗のデザインであれば、店主の性別や年齢、どのような性格で、趣味は何かといった人物像を考えてお店をデザインしていくんです。木の柱についた傷ひとつをとっても、職人が雑に木を扱ってできたものなのか、動物がかじった跡なのか、馬をつなぐときにできた傷なのか、その理由を考えて傷の幅や深さを検討します。そうした細部に宿るストーリーをデザインで表現し、積み重ねます。以前にテーマパーク内のレストランのセルフレジの装飾を担当したことがあるのですが、お客様がその装飾から感じ取られたストーリーをSNSで発信されているのを見かけたときはうれしかったですね。ストーリー性を含めてデザインを楽しんでいただけるのが、仕事のやりがいにもつながっています。


デザインと施工の両方の立場を理解するため、あえて慣れないところに身を置くことを意識

ホテルの仕事が落ち着いてからは、テーマパーク内の岩や建物の壁や天井などを木のように形づくるモルタル造形にも従事しています。学生時代のように作業着姿で作業をしていますよ(笑)。デザインをするうえで、現場に出たい、現場を知っておきたいという気持ちがありました。現場を理解することは、決して目先の受注担当者の方だけでなく、その向こう側、最前線で作業する職人さんとのコミュニケーションを円滑にし、最終的に制作物のクオリティーにつながると考えています。多摩美で産学共同プロジェクトを経験したことも大きいです。調理器具メーカーのウィンドウディスプレイに携わり、デザインから制作、設営までを担当したのですが、図面を引いて終わりではなく、現場で細かな仕上げまで手がけることで、仕事の精度をより上げられると感じました。前職では現場監督として施工を担当したこともあり、それらの経験がいまの仕事にも生きています。あえて慣れないところに身を置き、未知の分野に挑戦することで、常に成長できるように心がけています。

学生時代は好きなことだけに注力するのではなく、そのまわりにあるいろんなことに全力でチャレンジするといいのではないかと思います。将来就きたい仕事とは無関係に思えることも、社会に出たときにきっと役に立つことがあるはずです。