カシオ計算機
株式会社

世界的なデザインアワードで最高賞を受賞
人に伝える「思いの強さ」が原動力

「G-SHOCK」をはじめとした時計や楽器、電卓、電子辞書などさまざまな分野の商品を手がけ、国内外問わず巨大な市場を持つグローバルブランド。「創造 貢献」を経営理念に掲げ、人々の暮らしのなかに溶け込み、新しい価値を生み出し続ける企業を目指す。
https://www.casio.co.jp/
取材日:2023.7.10

開発本部 デザイン開発統轄部
デザイン戦略室
チーフデザイナー
菱山浩昭さん

デザインの可能性を広げ、事業を推進する
リーダー型のデザイナー人材が求められる

当社では、事業の柱である「時計」「教育」「楽器」および新規事業において、デザイナーも新たな価値創出に取り組んでいます。デザイナーは孤軍奮闘しているわけではなく、関係部門と連携してプロジェクトに関わります。たとえばブランディングの切り口でいえば、ブランドごとにブランドステイトメントを設定して関係者と共有し、ブランドが目指す方向性や価値観などに基づいて企画開発からマーケティング、デザインまでを一気通貫で進めます。そのような活動をもとに、プロダクト、CMF、パッケージなど、さまざまな分野のデザイナーがそれぞれの役割を担い、新たな価値創出のために社内で力を合わせています。

今年4月、新社長の就任に伴い、「オンリーワンの市場ポジションを創出し、唯一無二のブランドを育て上げる」という目標を打ち立てました。皆さんにお馴染みの「G-SHOCK」はまさに唯一無二のブランドにあたり、継承と革新の商品開発により人気を継続しています。この「G-SHOCK」をはじめ、電子楽器の「Privia(プリヴィア)」や「Casiotone(カシオトーン)」など、多くのヒットブランドのデザインを多摩美の卒業生が手がけてきました。多摩美生との最初のつながりは1980年までさかのぼり、現在の在籍者は12名となります。

デザイナーの採用活動に携わるなかで多摩美生に共通して感じるのは、自分なりのポリシーを持ち、芯がしっかりしているところです。多摩美らしさの特徴として、「思いの強い」学生が非常に多い印象を受けます。自分のデザインをきちんと第三者に伝えることができ、その思いが表現された作品のレベルも総じて高いです。近年、リーダーシップを持ってデザインの可能性を広げ、事業を推進していけるデザイナー人材が求められるようになっています。多摩美生はその像に合致し、当社でもリーダーやマネージャーとしてチームを引っ張っている人も少なくないため、社会での活躍の場は今後ますます広がっていくでしょう。

開発本部 デザイン開発統轄部
アドバンスデザイン室
神出英さん
1997年|プロダクトデザイン卒

問題提起から解決までをデザインにつなげ、思いの強さで「新しい文化を創る」

楽器のプロダクトデザインを中心に担当しています。楽器以前は携帯電話、デジタルカメラ、プリンター、電子辞書など、時計以外の幅広い製品を担当してきました。カシオは3社目、中途入社です。プロダクトデザインは闇雲に製品のデザインを思考するわけではありません。ターゲットユーザーや該当する層の好みをリサーチし、その人のライフスタイルや製品を取り巻く環境も意識しながらデザインしています。同時に、単にモノをデザインするのではなく、「新しい文化を創ること」も強く意識しています。自分がデザインした製品が市場に受け入れられ、生活の一部になっているのを見聞きしたときは、非常にやりがいを感じますね。

プロダクトデザインチームの一員として携わった電子ピアノ「Privia PX-S7000」はその代表作といえます。Priviaシリーズの最上位モデルで、美しくモダンなデザインと新たな演奏体験の実現を目指し、従来のピアノとは異なる世界観を追求したものです。社内の複数部門の力を結集して完成した同製品は、国際的に権威のある世界三大デザインアワードのひとつ、ドイツの「iFデザインアワード2023」で最高賞のゴールドアワードを受賞しました。

多摩美の学生だった頃、自ら問題提起して、課題の発見から解決までリサーチしながらデザインにつなげるという授業がありました。その一連の流れはいまの仕事でも大いに生きています。会社では、指示された仕事をこなしているだけだと、成長するのは難しい。社会の問題などを自ら見出し、価値ある解決策を提案していくことが問われていると感じます。そういった姿勢は多摩美の授業で根付いたものです。加えて、多摩美らしいといわれる「思いの強さ」も、デザインの仕事の原動力になっています。私自身、在籍した会社で口々に「多摩美の学生は思いが強いよね」と言われてきましたから(笑)。

「新しい文化を創ること」は容易ではありません。デザインを通じて成し遂げるのは生半可な気持ちでは難しいだろうと思っています。そこを突破するために必要な力が、自ら問題提起して意義のある解決策を生み出すことや、思いの強さなのかもしれません。多摩美での学生生活は長いようで短いもの。後輩の皆さんには、社会人の基礎をつくる4年間と位置づけ、自分磨きをしてほしいです。

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開発本部 デザイン開発統轄部
アドバンスデザイン室 リーダー
中村周平さん
2011年|プロダクトデザイン卒

異なる軸の探究を同時に行い、答えの掛け合わせが新たな視点を生んだ

各種製品のプロダクトデザインを担当したのち、楽器担当のデザインディレクターになりました。製品単体のスタイリングのもう一段上のレイヤーで、ディレクション業務が中心です。事業課題や企画開発を頭に置きつつ、製品のデザイン戦略やコンセプトを練り上げ、ユーザーにとってもビジネスにとっても最適なデザインの実現に向け、デザインチームを動かす仕事になります。今回、ゴールドアワード賞をいただいた「Privia PX-S7000」でも、デザインコンセプトの策定と、デザインチームのメンバーそれぞれの個性やスキルを活かしつつ、コンセプトに合ったプロダクトデザインにまとめ上げることが私の役割でした。「新しい文化を創ること」と同様に、世の中の当たり前を崩して、新しい体験や価値の提供をデザインで創り上げていくのが面白く、やりがいを感じるところです。

「Privia PX-S7000」のプロジェクトではロンドンに半年余り滞在し、コンセプトワークを行いました。ピアノといえば、黒い箱型で壁際に置かれ、クラシック音楽を奏でるものであるというイメージを持っている人も多いと思います。しかし、ターゲットとした「昔弾いていたけれど、いまは弾いていない」潜在的なユーザーにヒアリングして聞こえてきたのは、そういった伝統的なピアノのイメージを敬遠する声でした。ピアノを弾くのは好きなものの、「スタイリングがいまのモダンな家に合わない」「ピアノは壁際で孤独に練習するイメージがあって、そういう体験は求めていない」と。このようなネックを解消する発想から、「ライフスタイルに調和するピアノ」をコンセプトとした新しいあり方に行き着き、デザインをまとめていったんです。結果、大変喜ばしい今回の受賞となったわけですが、足掛け5年の長い道のりでした。それだけに、ベルリンに招かれて、アカデミー賞みたいな授賞式でトロフィーを受け取ったときは感慨深かったですね。

私は「コンセプトメイキングが得意」と社内で評価してもらうことがあるのですが、これはひとえに多摩美での学びの賜物だと思っています。際立って身になっているのは4年生の時の卒業制作につながる事前課題です。異なる2つの分野のことを調査・研究して深く考察し、得られたことを組み合わせ、自分なりの新しい視点を生み出して卒業制作に挑むという内容でした。「Privia PX-S7000」にしても、ピアノのみを探究していたら、「ライフスタイルに調和するピアノ」という解には到達できなかったはずです。暮らし、家具、建築などの異なる軸の探究を同時に行い、答えの掛け合わせが新たな視点を生んだと考えています。

大学時代は自分の興味や価値観にとことん向き合える貴重な時間です。多摩美はその環境が充実しています。未知なる可能性を突き詰めて、個性をとがらせください。

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開発本部 デザイン開発統轄部
ブランドデザイン室 室長
村田史奈さん
2007年|情報デザイン卒

言葉やビジュアルを整理して「最適解」を導き出す仕事は
情報デザインの授業そのもの

ブランドデザイン室に所属し、ブランドの価値向上に取り組んでいます。ブランド構築のために、イメージの言語化と視覚化を行い、プロモーションの際にはアートディレクションを担うこともあります。 「Privia PX-S7000」でいえば、Priviaのブランドステイトメントとして「In Harmony with Life」を軸とするところからスタートしました。これが言語化です。デザイン部に限らず、企画開発やマーケティングなど、関係部署を横断したプロジェクトチームを結成し、議論を重ねました。そうして言語化したイメージをもとに、目指す世界観をコンセプトアートとして視覚化します。どのような部屋で、どのようにピアノが置かれるのか。写真のトーンやインテリアまで明確にし、出来上がったコンセプトアートをプロジェクトメンバーで共有しました。商品開発の早い段階で、メンバー全員がPriviaの世界観を認識し、共通のシーンを頭に置いて進めることが非常に重要だと考えています。

私は新卒入社後、携帯電話やデジタルカメラなどのUIデザインを担当しました。その後、商品企画、CMFデザインなどを経験したのち、Casiotoneのブランドデザインを手がけるようになりました。Casiotoneは1980年の発売後、一度販売をやめてその名がなくなっています。再度そのブランド名で販売する話が持ち上がるも、発売時のものを復刻するか、まったく新しい形で提供するかなど、関係者間でCasiotone像がバラバラでした。Casiotoneを再び世に出したい気持ちは共通しているのに、人それぞれデザインのイメージは異なる。そんなふぞろいな思いをデザイナーが整理し、統一した言葉やビジュアルを作って旗印とする仕事から、いまに続く商品コンセプトやプロモーションビジュアルが生まれました。約5年前のことです。このようにブランドの観点で製品づくりの根幹から関わり、主導していくスタイルは、いま主流になりつつあります。

「Privia PX-S7000」のプロジェクトチームが集まった際に、「このビジュアルや世界観を創るには、この機能ははずせないな」「そうだね」という商品企画のやり取りを耳にしました。視覚化することで、よりチームの意思統一が図られ、同じ目標を目指せている表れです。関係者だけでなくお客様に対しても、私たちの思いが製品レビューなどで狙いがしっかり伝わっていると知ったときは達成感を感じますね。発信したいことを、どんなふうに伝えたら受け手に魅力的に捉えられるのか。その変換を考えるのがブランドデザインの役割だと思っています。情報を伝える手段は文章、図、写真などさまざまあり、それらを整理して最適解を出さなければなりません。この一連の過程は、振り返ると、多摩美の情報デザインの授業そのものだと気づきました。

メーカーでは最近、年功序列の呪縛が大分弱まり、若手でもアイデアが面白ければ採用されるなど、チャンスは広がっています。多摩美生の「思いの強さ」を武器に、自分のやりたいことを切り開いていってほしいと思います。

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※掲載者の所属などは記事公開時のものです。