企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

「プリウス」「レクサスIS」などの 内装デザイン、CMFデザインを担当

トヨタ自動車株式会社

卒業生の戸澤 早紀さん。CMFを担当した現行ヤリスのスケールモデルの前で

2022年に新車販売台数が3年連続世界一位となった、日本を代表する自動車メーカー。代表的な商品に「クラウン」「プリウス」「ヤリス」など。世界中のお客様の笑顔と幸せのため、「未来のモビリティ社会の実現」を目指す。
https://global.toyota/jp/

2023年5月掲載


コンセプトを考え、ものをつくり検証し、問題解決に取り組む力が卒業生の強み

山本 優太郎さん
山本 優太郎さん

2014年|プロダクトデザイン卒

トヨタ自動車株式会社
MSカンパニー MSデザイン部
第一デザイン室 1G

車づくりの中でも、私が担当するのは内装デザインです。直近で携わったのは「プリウス」という車種。カップホルダーやトレー、スマホの充電器といった機能が集約するエリアは特に力を入れた部分です。また、これまでに「カローラ」や水素自動車の「MIRAI(ミライ)」のデザインにも参加しています。

車づくりは、まず「どのような世界観で、どのような価値を提案するか」という大きなコンセプトを決定するところから始まります。そして、内装担当・外装担当に分かれた6〜7名のデザイナーがそれを具体化します。描いたデザインを立体に起こしてからは、設計者の視点も取り入れながら何度もつくり直し、仕様や使い勝手を詰めていくというのが大まかな流れです。

内装デザインの特徴は、ものを置いたり操作をしたり、人の動作に関わる部分が多いところにあります。だから、実際に運転席に座って初めて「どの高さにどの機能があると使いやすいか」がわかる。これが難しくもありおもしろいところだと思っています。「かっこいいけれど使いづらいデザインではないか?」「お客さまのためのデザインか?」を常に自問自答し、使いやすさとデザインのバランスを考えていく必要があるのです。

企業で働くデザイナーにとって、コンセプトを考え、それをきちんとアウトプットする力がいかに重要かを日々実感しています。ものづくりはデザイナーだけでは完結しません。設計者や企画担当者と一緒に仕事をする上では、「なぜその形か?」という質問に論理的に答えられないといけない。「かっこいいから」だけではアイデアとして弱いのです。その点、コンセプトを考え、実際にものをつくり検証しながら問題解決に取り組むことができた多摩美での学びは大いに役立っています。

また、私が以前サレジオ工業高等専門学校に通っていたときの話ですが、当時インターンシップ先の企業で多摩美の学生と一緒に活動する機会がありました。私が3年次編入で多摩美を受験したのは、そこで多摩美生たちのプレゼン能力の高さやアウトプットとコンセプトがしっかりつながった考え方に衝撃を受けたことがきっかけです。こうしたコンセプトの考え方と感性を、バランスよくトレーニングできる場があるのが多摩美の優れた点ではないでしょうか。トヨタには多摩美の卒業生が多く働いていますが、感性的であり論理的にも筋が通っているデザインが得意な人が多いと感じます。

カップホルダーやトレー、スマホの充電器といった機能が集約するエリアは特に力を入れたという「プリウス」

新しいものを取り入れて活用する力や色彩へのこだわりが仕事に活きる

戸澤 早紀さん
戸澤 早紀さん

2014年|テキスタイルデザイン卒

トヨタ自動車株式会社
カラー&感性デザイン室

私が最近手掛けた車種は、「レクサスIS」と「ヤリス」です。車づくりで取り組んでいるのは、CMFデザインと呼ばれる分野になります。車両の色(Color)、素材(Material)、加工方法(Finish)のデザイナーとして、車両の世界観の構築、ボディカラーの選定やインテリアの配色や素材開発から各サプライヤーの生産現場との連携まで幅広い仕事をしています。アートディレクターのように全体を指揮しながら、車両の持つメッセージをわかりやすく、魅力的に仕立てていくのが主な業務です。

大学時代はサーフェスデザインを専攻していたのですが、北欧のパターン柄など興味があり、特に色彩に関してこだわりを持って制作していていました。さらに、髙橋正先生(現 名誉教授)の色彩感覚には大きな影響を受けて、推薦された本を読みあさり、教えてもらった建築家の作品を見るためにメキシコまで行ってしまうぐらい色にはこだわっていました。私の仕事に欠かせない色彩感覚も、多摩美で感性が磨かれたことによって成長したように思います。

仕事でのこだわりとして、それぞれの車両に合ったデザインをしたいなと思っています。例えば新世代コンパクトカーの「ヤリス」では、高級素材を使うよりは、車のグレードやキャラクターに合わせながらも、それ以上の魅力を引き出すためのデザインにこだわりました。ボディカラーにめずらしい、「アイスピンクメタリック」という呼称で淡くかわいすぎないピンク色をクリエイションしています。モノトーンに加えてブラックのツートンカラーでも展開しているのですが、その際はスポーティでかっこよく見えるよう、二面性のある色をデザインしました。おかげでピンク色をあまり好まないとされるヨーロッパのマーケットでも好評なようです。

今、デザイナーは車両を魅力的に仕立てるだけでなく、車に乗るという体験価値までデザインすることを求められています。どんなデザインを実装すれば、どんな “コト” を提供できるのか。ユーザーに届けるべき体験価値は何か、模索しながら仕事をしています。

トヨタ自動車では多摩美の卒業生が多く活躍しているのですが、スケッチスキルが高かったり、3Dモデリングや動画などを巧みに使って仕事をする人が多く、新しいものを取り入れて活用する能力の高さやグラフィックのセンスの良さを感じます。多摩美ではデザインを構築していく上での感性を磨けたことだけでなく、人との出会いの影響が大きいです。今でもSNSなどで卒業生や教授などが活躍しているのをみかけるとモチベーションが上がります。

学生時代は好きなことをさせてもらえる時間は幸せなことだと思うので、今の環境を特別だと思って過ごしてほしいと思います。社会人よりも大学の方が夢中になれる時間があるので自分が表現したいたいことがあるんだったら、どんなことに興味があって何をしたらいいのかをしっかりと考えてほしいと思います。

CMFを担当した現行ヤリスのスケールモデルの前で