企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

外装やカラーなどカーデザインの 主要箇所で多摩美卒業生が活躍

株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター

Hondaの研究開発機関。四輪・二輪・パワープロダクツ、すべての技術・製品の研究開発を行う。
https://global.honda/jp/RandD/

2018年10月掲載


昨年の東京モーターショーでは、次世代の車「Urban EV Concept」のデザインを担当

照井 悠司さん
照井 悠司さん

2004年|プロダクトデザイン卒

株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター
デザイン室 1スタジオ

車のデザインは、エクステリア(外装)、インテリア、カラーマテリアル、工学的側面から骨格部分を設計するレイアウトデザインなど、多くの専門デザイナーが関わり共に作り上げるのが特徴です。私はその中で、エクステリアデザインを担当しています。昨年の東京モーターショーでは、車の未来像を描いたショーカーのデザインに携わりました。プロダクトデザイナーの役割とは、単に曲線のかっこよさなどではなく、お客様にどんな価値観を提供し、どんな暮らしをしてほしいかを提案することにあります。次世代の車の方向性を打ち出し、それをかなえる一連のデザイン提案を行いました。

お客さまに価値を届けるまでのプロセスを体験

大学1年生の時、「クリスマスプレゼントを考える」というグループ課題がありました。その課題には、贈る相手が求めるものは何か、それによって相手にどのような感動や体験を提供したいかを考えるだけでなく、価値観がぶつかり合うチーム内で意見をまとめながら解決させ、最終的にプレゼン発表を行うまでのすべてのプロセスが詰まっていました。この経験は当時も衝撃的でしたが、いま改めて、プレゼントを贈る相手、つまりお客さまに価値を届ける現在の仕事とまったく同じ工程作業であったことを実感しています。ほかにも産学共同連携授業など、より実践的な体験プログラムが多かったことも、いまに生きています。

このような体験を通して、デザインの根源に気づいたことが多摩美での一番の収穫です。私は子どもの頃から“ホンダ”が好きで、車が好きで、ホンダでデザインをやるにはどうしたらよいかと考えて多摩美に入学しました。当初は純粋にスポーティーな車体へのあこがれでしたが、やがて、家族や仲間がニコニコ笑ってドライブするような、その姿そのものがかっこいいと思うようになりました。見た目だけのモノではなく、豊かな暮らしを生み出すモノを作りたい。作る目的は何かと考えた時に、デザインの力が必要だと気づけたのです。

経験の引き出しがあってこそ求められるデザインが生まれる

私は“ホンダ“のデザイナーとして、人の暮らしをより良くすることをイメージしながら、これからの車の在り方を考え続けています。デザイナーとしてやるべきことは、例えば「課題の高得点を狙う」みたいなことではないと思っています。いろんな経験の引き出しがあってこそ人に求められるデザインは生まれると思うので、後輩の方にはぜひ、学校の課題以外にもさまざまな経験を積んでほしいですね。学内外問わずいろんなプロジェクトに参加して、人との出会いや感動を体験してください。その引き出しは、将来何かの判断を迫られたとき、きっと役立つときが来ます。

EV(電気自動車)という新たなモビリティとして親しみを持って所有してもらえるよう、「タイヤのついたロボット・相棒」という意識でカタチを探求した「Urban EV Concept」。

ホンダの現役デザイナーによる協力授業がきっかけで、
車の外装や内装のカラーデザインの道へ

岩崎 麻里子さん
岩崎 麻里子さん

2013年|プロダクトデザイン卒

株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター
デザイン室 3スタジオ

私はCMF(カラーマテリアルフィニッシュ)デザインといって、車の外装や内装の、色や素材のデザインを担当しています。通常この分野はテキスタイル系出身のデザイナーが多く、プロダクトデザイン専攻出身者はまだ少ないのが実情です。ですので、例えばファブリック(布地)の知識などまったくありませんでしたし、そういう意味ではハンデがありました。ただ、ホンダにおいてはCMFもひとつの工業製品のひとつと捉えますので、そう考えると、プロダクトの知識と経験は生きてきます。車というひとつのプロダクトを作るとき、カラーだけでなく全体に意識を向けられる視点が必要だという期待から、私はここに採用されたと考えています。

仕事中によく思い出す多摩美時代の経験

車づくりは、人命が係わるものだからこそ作り手同士が目的を共有し互いを理解することが重要なのですが、あらゆる場面で、多摩美で得た一歩引いて冷静に見る視点と、日常的に行なっていた協同作業の重みを思い返しています。課題では、絵を描けばいいだけでも、モノを作ればいいだけでもありません。企画立てからプレゼン手法に至るまですごく考えなくてはならないし、意識してなくても常に冷静な目を持つ感覚が育ちました。またオープンキャンパスなどのイベントでは、先輩後輩や他学科との共同作業があり、その中でコミュニケーションの取り方やバランス感覚が培われました。仕事は一つに没頭していればいいわけではないので、そういう経験が本当に役立っています。仕事中によく、「前にもあったな、こんな感じ」と、思い出されます(笑)。

現役デザイナーによる授業から自分の適性を考えた

入社したいと思ったきっかけは、2年生の時に受けたホンダの現役デザイナーによる協力授業でした。リサーチからプレゼン発表まで、一連のデザインプロセスを実践的に教えてくれる内容で、その姿勢を学びながら「将来この人たちと働きたい」と強く感じたのです。「なぜプロダクトからカラーへ?」と、入社面接はもちろん、いまもよく質問されます。私は授業を通して好きになった“ホンダ“という会社で仕事をしたい、興味ある車に携わりたいと思い、「ここで自分がやれることは何か」と考えた時にカラーだと思ったのです。さまざまなデザイン領域のプロたちが一緒に同じゴールを目指し、各ピースを埋めるようにフォローアップして作り上げていく過程において、うまく自分の適性を生かせる場所はここだった、という感じです。

日々業界の流れも変わるし世の中が変化していく中で、「自分はこれが得意だ」と決めつけない方がいいと思っています。得意だと思っていても、ところ変わればそうでもなかったと気づくかもしれません。私もそうですが、後輩の皆さんもぜひ、何ごとも決めつけず、できないと思うことでもやってみて、柔軟な頭でチャレンジしていけたらいいなと思います。