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環境デザイン学科が建築家・内藤廣氏と未来の建築を考えるシンポジウムを開催


内藤 廣 氏

  

6月10日、環境デザイン学科シンポジウム「岐路に立つ現代建築 ――未来の建築はどうあるべきか?」が開催されました。建築をつくるということには、新しい未来を切り開く側面と、環境資源を枯渇させる危険性が同時に含まれています。テクノロジーに大きく依存する社会を目指すのか、便利なライフタイルを修正していくのか、現代建築もまた「未来の選択の岐路」に立っています。近年、渋谷の都市開発や東日本大震災の復興プロジェクトを手がけている建築家で東京大学名誉教授の内藤廣氏をゲストに迎え、「私たちはどういう未来の建築の在り方を選ぶべきか」という問題を基軸に、これからの建築について考えました。

建築でしか回収できない価値を追求

前半は内藤氏が設計した建物をスライドで紹介しながら、建築に対する考え方についてお話をうかがいました。内藤氏が手がけた東京・千代田区の紀尾井清堂は、クライアントから機能や用途などについての指定がなく「自由な設計」を委ねられたとのこと。そこで内藤氏は40年以上に渡る自身のキャリアを鑑みながら「建築家としてしたいことは何か」と改めて自問。「何かのために建てるのではなく、建築にはそれ自身でしか回収できない価値があるのではないか」と考えました。

「建築それ自身にしか回収できない美しさや素晴らしさがあるのなら、それを追求したい」。その思いから、紀尾井清堂は「ものとしての存在感を出したい」と着想。コンクリートが宙に浮くように設計し、その周囲をガラスで囲いました。寸法に誤差の生じるコンクリートとミリ単位の精度で扱うことができるガラスの対比について、「構造の合理性などは全くないけど、ロジカルに構造的な整合性のあるところに、無理やり何かをつっこむということをしてみたいと考えました。整理整頓と破壊を両方してみたいという思いでつくりました」(内藤氏)。

自然に向き合う決意の中から、建築の「純粋な形」が現れる

後半は今回のシンポジウムを企画したリベラルアーツセンターの飯島洋一教授と環境デザイン学科の松澤穣教授を交えてのクロストークが行われました。2011年の東日本大震災を経験し、圧倒的な自然を前にして建築はどうあるべきか、そして、高度化する資本主義社会において建築はどうあるべきか、私たちを取り巻く自然環境と社会といった点からさまざまな意見が交わされました。

自然と人間の関係性を説きながら、内藤氏は、「人間は愚かではあるが、愚かな人間が変幻自在な自然に向き合うには決意が必要。その決意の中に、ひょっとしたら建築のもっとも純粋な形が現れるのではないかという期待がある」と述べ、将来起こりうる大きな自然災害に対しては「日頃からの思考訓練が必要。建築に対する考えも、人間に対する考えも、災害が起きてから考えるのではなく、今からできるだけ考えておくと、いざというときに役立つ」と話しました。

さらに内藤氏は、コンピュータなどの技術進化によって社会システム自体が変わる将来を見越し、「変わらないものと変わっていくもの、あるいは突然やってくるもの、その間でどう調停できるか。それが建築のデザインです」と述べました。それを受け、松澤教授は「資本主義の中でも、建築は抵抗をみせられるジャンル。建築で調停できるという夢はもてる」と話し、飯島教授は「社会のほうがバランスを欠いているので、それに対する誠実な違和感をもち、純粋にぶつかってほしい。そうすることで自身の求めるデザインや芸術がご褒美のようにやってくる」と聴講した学生たちにアドバイスを送りました。

  

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クロストークの様子。写真左から内藤氏、飯島教授、松澤教授

シンポジウムは全学科に公開され、環境デザイン学科をはじめ多くの学生が聴講しました。