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プロダクトの学生が早稲田大生・東京理科大生と組みビジネスアイデアで2つの賞を受賞

2022年2月、プロダクトデザイン専攻3年生の川上梨子さんが、早稲田大生や東京理科大生とともに創出したビジネスアイデアで、起業コンテスト「第4回WASEDA Demo Day」においてソレイジア・ファーマ賞と、わせたま×SUMS-EDGE賞をダブル受賞しました。元となるアイデアを生み出した、本学と早稲田大学、滋賀医科大学との連携講座のことなど、川上さんにお話を伺いました。



病院で働く医師や看護師にインタビューし、病院内の働き方改革につながるサービスを思いついた

―― ソレイジア・ファーマ賞と、わせたま×SUMS-EDGE賞のダブル受賞おめでとうございます。
このビジネスアイデアが生まれた経緯について、おしえてください。

2021年の夏に多摩美と早稲田大学、滋賀医科大学との連携講座※に参加したことから生まれました。医療に特化した事業を創出することを目的とした18日間のプログラムで、ビジネスモデル構築やアイディエーションなどの講義を受けながら、医療従事者にインタビューをし、自分たちのアイデアをビジネスに結び付けて、最終日にはプレゼンテーションを行うというものです。私は早稲田大生、東京理科大生との4人のチームで取り組みました。講座が終わった後も週に1回ほど皆で打ち合わせをしながら、そのアイデアをさらにブラッシュアップさせていき、2月の「第4回WASEDA Demo Day」で発表しました。自分たちできる最大限まで磨いたこのアイデアが社会に通用するのかを知りたいと思って参加しましたが、想像していた以上に評価していただけたのが嬉しかったです。

※「早稲田大学×多摩美術大学×滋賀医科大学 医療特化型事業創造プログラム」。早稲田大学を主幹に国内外の関係機関と連携して実施する起業家育成プログラム「EDGE-NEXT」において、本学と早稲田大学が連携講座「ビジネスモデル仮説検証プログラム」を2017年度から実施。2021年度は早稲田大学と滋賀医科大学間での連携講座とも合体し、3大学連携で医療分野にテーマを絞ったプログラムを実施した。

―― 受賞された「屋内情報共有サービス『ミカエル』」はどういったアイデアですか。
病院内で働いている医師や看護師、患者の位置情報を地図に表示するというサービスです。同僚の勤務状況を可視化し、地図上から電話やチャットを出来るようにすることで、現場の連絡体制の迅速化、業務の効率化を図り、ひいては医療現場の人的課題の改善につなげる目的で考案しました。ミカエルというサービス名は「見て変える」、つまり地図上に見えることで自分の行動が変わるという意味と、大天使ミカエルの名前から全体を俯瞰して見るという意味を込めました。実際、医師や看護師の方にインタビューして現場の課題を洗い出すなかで、病院内の働き方改革が進んでいないと感じたこともあり、院内で働く人が互いに状況が分かっていればストレスが軽減されるのではないかと、位置情報のアイデアが生まれました。

第4回WASEDA Demo Dayで発表した「屋内情報共有サービス『ミカエル』」(クリックで拡大します)

チームの思考を可視化し、情報をまとめてディスカッションを促す。
ロゴデザインもソレイジア・ファーマ社の副取締役から高い評価

―― 他大学生との合同チームで進めるのはいかがでしたか。
性格診断を受けて、それをもとにチーム編成されたと聞いています。私のチームは、早稲田大生2名と東京理科大生1名の計4名。早稲田大生のひとりは留学生で、それぞれが学んでいる分野も経営工学や教育学などバラバラでした。講座では初日からアイデア出していくのですが、初めて会うメンバーでオンライン開催ということもありなかなか進まなかったんです。授業のなかではMiro(オンラインホワイトボードアプリ)を使っていましたが、思考を可視化したり、情報をまとめるなど、自分から率先してこのアプリを活用し、ディスカッションを促す役を買って出ました。私はチームの中で特にプレゼン資料の制作やロゴなどデザイン部分を担当しましたが、美大生の自分がデザインに限らずチームに貢献できることをやっていこうと、アイデアを様々な角度から検討したり、イラストを描いて可視化したり、すぐにプロトタイプを作ってみたりと、プロセスにおいても積極的にかかわっていきました。するとメンバーから「絵を描けるだけじゃなくて、いろんなことができるんだから、もっと自分に自信を持ちなよ」と言われて、チーム内で信頼してもらえているんだ!と自信になりましたね。メンバーは、収益計画をすぐにエクセルで作成したり、考えを論理的にまとめてくれたり、想像していなかった角度から意見をくれたりと、多摩美の自分の周りにはいないような凄い人たちだったので、いい意味でカルチャーショックを受けました。

―― アイデアを発表するまでに苦労されたことはありましたか。
アイデアは、知人の研修医や介護士の方にヒアリングしてブラッシュアップしていきましたが、こうしたサービスを実際に病院に導入するかを検討するのは経営層の方ですよね。そういった経営者の方が周りにおらず、意見を聞くことができなかったので、本当にニーズがあるのかわからず不安を感じることはありました。

―― WASEDA Demo Dayで受賞されてからはどうですか。
ソレイジア・ファーマ賞を受けた後、ソレイジア・ファーマ社内に向けてアイデアを発表する機会があったのですが、そこに取締役と副取締役の方が出席されて、私がデザインしたサービスのロゴを褒めてくださいました。企業のトップの方から自分の作ったものを評価いただけたのがうれしかったです。起業資金として副賞の50万円をいただきましたが、この使途については今検討しているところです。実際に「ミカエル」を立ち上げるなら、機材や端末代、アプリの開発費などがかかり、とても50万円では賄えない。スモールビジネスから始めるか、小さなエリアで何かできないか、資金が潤沢にある企業にこのアイデアを活用してもらったほうがいいかなど、どれから手をつけたら社会に還元できるかを慎重に考えています。また、メンバーも就職や大学院進学など進路が決まっているので、このビジネスにどこまで携われるかも課題です。


多角的な視点でものごとを考えられるようになったと実感。
将来は人と人、人とモノなどの関係性をより良くしていけるデザイナーになりたい

―― 今回の活動を通じて、得られたものはありましたか。
ビジネスアイデアの作り方を学べたのは良かったと思っています。3年の夏に連携講座で学び、そのあとすぐに取り組んだ後期の産学共同授業で、さっそく学びを生かすことができました。私は幼稚園バスのリデザインに取り組んだのですが、幼稚園のバスが幼児だけでなく、引率者、保護者、地域の人にとってどういう意味があるのか、アイデアをどうやって社会に生かすことができるだろうか、と多角的な視点で考えられるようになり、講座を受ける前と後では自分の思考が変わったと実感したんです。 また、自分の強みを自覚することができました。私は様々な領域に興味を持っていて、何でもやってみようという精神が強い。そこに芸術的なバックグラウンドを持っています。目標を達成したいときに、計画をたて、どのように自分や周りの考えをまとめて伝えるのかを考え、行動に移すのも得意。そういったことを、チームメンバーから褒められたことで自覚し、自信につながりました。

2021年11月に行われた、学外交流と成果発表を行うイベント「屋台トーク」での展示風景
川上さんは「文字の要素の抽出による、筆記体験のデザイン」を発表した

―― 将来はどういった活躍を目指していますか?
デザインの立場から様々な課題に取り組み、本質的な価値を追求できるゼネラリストを目指しています。幅広い領域に関心があることを武器にして、様々なものに触れる力、吸収してまとめる力を磨き、それをデザインを通して社会に還元したい。人と人、人とモノ、人と環境などあらゆる関係性を、デザインを使ってより良くしていきたいです。

―― ありがとうございました。


川上 梨子さん
川上 梨子さん

プロダクトデザイン専攻4年


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